リアル人生ゲーム(裏)
「いただきます!」
私はそう心の中で言い、手を合わせた。
我ながら凄い勢いで、お母さんが作ってくれた朝食にがっつく。
「誰も取らないから、ゆっくり食べない」
呆れたように笑うお母さん。
3日ぶりのご飯は、美味しいなんてもんじゃなく。
「あっ、そうだ。お母さんたち、法事に行くから留守番、お願いね」
私は頷く。
「隣の山田さんの荷物、来たら預かってね」
また頷く。
「ご飯は作り置きしていくけど、生活費、いくらいる?」
首を傾げ、ピースサインを突き出す。
「二千円?」
ぶんぶん首を振る。
「二万?」
頷く。
「なんなの?喉でも痛いの?」
不審に思ったお母さんから逃げるように、私は家を出た。
今日1日、喋ることはできない。
食べないことより簡単だと思ったが、実は意外と難しい。
食べない飲まないは、自分がそうしなければいいだけだ。
お腹がいっぱいだから、ダイエットしているからと言い訳すればすむ。
でも__「光莉ちゃん、おはよう」と近所のおばさんに挨拶され、軽く頭を下げる。こう見えて私は外面がいいから、いつもは笑顔で挨拶を返すのだが。
「風邪?気をつけてね」
マスクで口元を隠す私に、おばさんがそう言った。