恋の宝石ずっと輝かせて


「トイラ、大丈夫か」

 人の姿に戻ったキースがトイラの傍に駆け寄った。

「ああ、大丈夫だ」

 トイラもまた人の姿に戻るが、立ち上がれずよつんばになったまだった。

 はあはあと肩で息をしている。

 ジークが去った後、辺りを確認しキースは口笛を吹く。

 そこに居た犬や猫たちは、命令解除の合図を受けてそれぞれの帰るべき場所へと去っていった。

「みんなありがとね」

 キースは労いの言葉をかけていた。

 トイラは最後の力を振り絞り、よたつきながらユキの元へ近寄る。

「俺、不覚だった。なんてことだ。お前が現れなければ、俺ダメだったかもしれない」

 自信過剰なトイラだが、めったに弱音を吐くことなどこれまでキースは見たことがなかった。

 それゆえに、キースは自分の存在を認められて役に立った事が誇らしかった。

「とにかく家に帰ろう。お前も早く体を治すんだ。森から薬草取ってきてやったよ。これを煎じて飲めばすぐに治癒するさ」

 トイラは地面に横たわってるユキの顔をじっと見つめ罪悪感いっぱいに悔しさを滲ませた。

 ユキを自分に引き寄せ、何度も謝りながら愛しく抱え込んだ。

 キースはその様子をまともにみられなくて、思わず悲しさから目を逸らす。

 代わりに見た空に浮かぶ美しい月ですら非情に感じてしまう。

 トイラがユキを抱えてよたよたと立ち上がり、重い足取りで歩きだした。

 キースは、少し離れてユキの乗っていた自転車を手にして黙って押していく。

 体も心も傷ついているトイラ。
 でもそれはまだ序の口だ。

 この先もっと辛くなる事をキースは予期していた。
 

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