恋の宝石ずっと輝かせて
「トイラ、カエルゾ」

 キースが立ち上がると、トイラも気力なく立ち上がった。

「ねぇ、トイラ、今日もこの後、どこかへ遊びに行きましょうよ。日本の文化や習慣は私が教えてあげるから」

 ミカがトイラの袖を引っ張ると、トイラは強く払いのけた。

 トイラが気まぐれで気難しいのは転校してきた当初からみんなが分かっていたことだった。

 だが、ミカは自分がそのような態度をとられるのは我慢ならない。

 それだけでミカのプライドを傷つけるのには充分だった。

 トイラの冷たい態度は、ミカの心に憎悪を簡単に植えつけた。

 自分がいい様に弄ばれていた。

 悔しい思いを必死に隠そうとはしていたが、腹立たしい感情が目つきに現れている。

 トイラはそんなこともお構いなしに、黙ってキースの後をついていくが、教室を出てすぐに廊下で仁と出会ってしまった。

「やあ、キース、トイラ。あれっ、ユキは?」

 仁が訊いたとたんに、くしゃみが一回出た。

「ユキ、サキニ カエッタ」

 キースが答えた。

 仁はそれを聞くや否や、ユキの後を追うように走っていった。

 トイラは仁の後姿を、私怨の目で見ていた。
「トイラ、ほんとわかりやすいな。僕もう笑えないし、何もできない。お前達両思いなのに、ほんと不憫だよな」

 キースは小声で耳打ちした。

「両思い?」

「お前、気がつかなかったのか。ユキの記憶は戻ってないが、心の思いだけはあの時と変わらぬままだって」

「今更、もうどうしようもないことさ。所詮俺には報われない恋さ」

「ひとつだけユキと一緒になる方法があるだろうが。まあユキが納得しないとできないけどな」

 キースの顔は強張っていた。

 あまりいい方法とはいえないようだ。

 トイラもわかっている方法だが、ユキが例え望んだとしても、それだけはどんなことがあってもできる訳がなかった。
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