恋の宝石ずっと輝かせて
「ユキ、大丈夫か」

 その声で、ユキは顔をあげる。

 トイラが心配のあまり、しゃがみこんでユキの顔を覗き込んだ。

 トイラの手が、自然にユキに触れようとしたその時、ユキは振り払う。

「もう、たくさんよ!触らないで!」

 ユキは大声で泣き出したくなる気持ちを必死に抑え、一人で立ち上がった。

 右足のひざ小僧がすりむけて血が出ていた。

「ユキ……」

 トイラは何もできず、歯を食いしばり、震えるように立ちあがった。

 思いを断ち切る辛さは、トイラの胸を押し潰す。

 トイラは堪えていた感情が今にもほとばしりそうで、我慢できずにどこかへ走り去ってしまった。

「おいっ、トイラ!」

 キースはトイラを呼び止めたが、走る後姿が見るに忍びなく目を伏せた。

 ユキに振り返り無理して笑う。

「大丈夫かい、ユキ」

 ユキは首を横に振る。

 堪えていた涙が溢れかえってきた。

 キースは優しくユキの背中をさすって慰める。

 家に帰るまで、キースはユキの側でソフトな声で歌を歌っていた。

 なんの歌かわからない、でも森林の匂いが漂うような感覚がふとよぎった。

 歌を聴いて匂いが想像できるなんて、ユキには初めてのことだった。

 かつて自分もその森にいたような、穏やかな気持ちにさせられた。
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