恋の宝石ずっと輝かせて
「だけど僕には羨ましいよ。それほどに誰かを好きになれるんだから。僕もこの世界に来て、正直なところ楽しいんだ。僕たちは森の守り駒として生きてきた。いわゆる、戦士だよね。いつも戦っては、体は傷だらけ。それを何百年と繰り返してきた。ほんと森の事しか知らなかった。でもこっちの世界を知ってしまうと、ちょっと憧れちゃうね」

 ふたりは顔を見合わせ、軽く笑みをこぼす。

 しかし、それも束の間、緊張が走った。

 急に辺りがざわめきだし、不穏な空気がながれてくる。

 キースの鋭い嗅覚が敵の襲来を察知した。

「気をつけろトイラ。何かがやってくる」

 緊迫した空気。真っ黒い影が空を覆った。

 よくみれば、それは鳥の大群だった。

「来やがったぜ」

 トイラは黒豹に変身した。

 キースも合わせて狼の姿に変わった。

 鳥の群れは容赦なく二人の体をつつきまくる。

 牙を見せ、かみつき、足で抑え込みながらトイラもキースも抵抗する。

 暫くすると、鳥達が急にすーっと幕を引くように空に消えていく。

 不気味に静まり返り、トイラとキースは神経を高ぶらせていた。

「そこだ!」

 キースが側にあった小石を蹴ると、黒い影が空中に姿を現した。

「なかなかやるな。だが武器を持たないお前達には、所詮そこまでしか戦えない」

 ジークがとうとう現れた。

 だが、ゆらゆらと不安定に、その黒い影は時々歪みをみせる。

「ジーク。いい加減にしろ。太陽の玉を返せ。お前には使いこなせない代物だ。それこそ、猫に小判、コウモリに太陽の玉だ」

 トイラが叫んだ。

「いや、そんなことはない。私が森の支配者となり、そして全ての上に立つ。馬鹿にしてきた奴らを見返してやるのさ。太陽の玉を見せたら、掌返すやつがいっぱいいたよ」

 ジークがせせら笑っている。

「お前たちも私に従った方がいい。今一度チャンスをやろう」

「誰が、お前のような卑劣な奴に従うもんか」

 トイラは飛び掛った。

 あっさりとジークを地面に叩きつけて、その上にのっかかる。

 それはあまりにも簡単すぎて、キースの顔が怪訝になる。

「トイラ、何かがおかしい。そいつはジークじゃない」

 キースがそういったとたんに、トイラが押さえつけていたジークの体がカラスの姿になっていた。

「影武者だ」

 キースが叫んだ。

「しまった、カムフラージュだ。ユキが危ない」

 トイラもキースも獣の姿のまま、我を忘れて一目散に走っていった。

 このときユキは危険の真っ只中にいた。


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