恋の宝石ずっと輝かせて
「どうした、ユキ、タコみたいな口して」

 トイラには気づいてもらえず、ユキはうなだれる。

「帰ろう、トイラ。学校が終わる前に帰らないと、誰かに見られて、学校サボったことばれちゃうかも」

「ユキ、ちょっと待って」

 トイラは園内に植えてある茂みからつやつやした小さな葉っぱを一枚取った。

 そしてそれをユキに向かって差し出した。

「何? 葉っぱ?」

「本当は俺の森にある、特定の葉っぱじゃないとダメなんだけど、今は手に入らないから、これで代用。さあ受け取って」

「えっ?」

 ユキは何のことか分からず、その葉っぱを不思議そうに手にした。

 するとトイラは突然ユキの腰に手を回して、自分の胸へとユキの体を引き寄せた。

 そしてユキの顔に近づくと、頬をひと舐めする。

 ユキはぞくっとしてしまった。

「ちょっと、トイラ、なっ、何をしてるの」

「何って、キスだけど。その葉っぱ受け取っただろ。それってキスOKのサインさ。まあいわゆる求愛の儀式ってところさ」

「トイラの世界ではこれがキス?」

「うん。愛情を持って毛づくろいする。お互いの匂い付けするんだ」

 ユキは猫を思い出して納得してしまった。でも何か違う。

「トイラ、待って。これもいいんだけど、(何言ってんだ、私は!)私はこっちのキスの方がいい」

 ユキは目を閉じて、そっとトイラの口に、自分の口を重ねた。

 今度はトイラが驚いていた。

 ふたりは見詰め合うとくすっと笑う。

 お互いの気持ちが通じ合うだけで心が満たされていた。

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