恋の宝石ずっと輝かせて

 半日の授業が全て終わると、トイラは猫がするように、まっすぐ机に突っ伏して伸びをしていた。

「腹減った」

 あまりの空腹から、五十嵐ミカから貰ったクッキーを袋から取り出して食べようとする。

 それをみたユキは、思わず取り上げた。

「ちょっと待って、トイラ」

「どうした、たかがクッキーだろ。大丈夫だよ」

 ユキはどうしても何かひっかかり、クッキーをまじまじ見ていた。

 形は丸く、普通に焼き上げられた、どこにでもある手作りクッキー。

 匂いをかいで見ると、微かにシナモンの匂いがした。

 ユキは思い切って食べてみた。

「あっ、ユキ!」

 トイラは驚き、ユキの反応を気にしている。

 慎重に噛み砕けば、サクサクとしていて歯ごたえよく、意外と上手に焼けて味もいい。

「あっ、美味しい」

 素直にぽろっと言葉が出ていた。

「だろ、やっぱり普通のクッキーだって」

「だけど、どうして急に焼いてもってきたんだろう」

 ミカは数人の女子たちと一緒に笑っておしゃべりをしている。そこにクッキーを手にしてみんなに配っていた。

 近くに居た男子にも勧め、みんなからおいしいと絶賛されていた。

 その様子を見れば、特にトイラとユキのために作ったというものには見えなかった。

 今日は半日の土曜日。

 お弁当がない分、軽く何かを食べられるように作ったのかもしれない。

 ユキは悪口を言われていることは知ってるけど、ミカはまだばれてないと思っていれば、クッキーをお裾分けしてもおかしくはない。

 表面だけは一応友達なのだから。

「気持ちの持ちようか」

 ユキは自分の分を取り出し、もう一つ口に入れた。

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