恋の宝石ずっと輝かせて
 ユキがもらったクッキーにはチョコチップが入って、トイラが貰ったシナモン味と同じくらい美味しかった。

「ユキ、何食べてるんだ」

 キースが覗き込む。

 クッキーを差し出そうとすると、それを拒んだ。

「僕、今から図書室にいってくる。ふたりで土曜の午後を楽しんでね」

 ウインクしてさっさと去っていった。

「あいつ、俺たちを気遣ってやがるぜ」

 トイラは笑っていた。

 そして目の前のクッキーを手に取り、パクッと食べていた。

「シナモン味か……」

 考え事するようにトイラは呟いていた。

「あっ、そうだ。トイラ、ちょっと待ってて。私、矢鍋さんにノート返してくる。きっと部活で体育館にいると思う。すぐに戻ってくるね」

 ユキは走って教室を出て行った。

 次々と生徒は教室を出て行き、ミカも友達と一緒に並んで去っていった。

 トイラだけが一人教室に残り、ユキが戻ってくるのを待っていた。

 じっとしていると、眠たくなりまぶたが重く感じる。

 お腹も空いて体がだるくて力がでない。

 トイラは疲れのせいだと、その時はあまり気にしてなかった。

「なんか眠たいな」

 大きな欠伸をしているときに、誰かが教室に入ってきて近づいてきた。

 ユキにしては小柄だった。

 眠たくて目が霞み、はっきりとその人物が見えない。

 近くまで来たとき、それがミカたということにやっと気がついた。

「トイラ、ちょっといい?」

「ナニカ ヨウカ?」

 異様に眠く、それを振り払いトイラはミカと向き合う。

 何を言われるのか注意をすれば、ミカはにこっと微笑んだ。

「クッキー美味しかった?」

「アア、オイシカッタ。サンキュー」

 素直にトイラは答えていた。

「よかった。ねぇ、ちょっと私に付き合ってよ」

 その声は低く、頼みごとをしているのに、命令口調のようにきつかった。

 しかしトイラはそれに従った。

 体が勝手にミカの後をついて行く。

(俺、どうしちまった。なんか体が言うこときかない)

 ミカとトイラが学校の裏の雑木林へ歩いていくのを、偶然、仁が廊下の窓からみかけた。

 ユキがいないことをいいことに、他の女と歩いているトイラを見たからには、思わずユキに告げ口したくなる。

 これで喧嘩でもして別れてくれたらいいのにと、意地悪な気持ちになっていた。


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