恋の宝石ずっと輝かせて
「ユキに何をする」

 怒りで我を忘れ、トイラの髪が逆立っている。

「トイラ、ユキちゃんを助けたかったら黒豹になるんだ。そして皆にその姿を見せろ」

 トイラは『グルルルルル』と唸っていた。

 人の姿のままで近づこうとする。

「おっと、待ったトイラ。その姿で近づいたら、このロープを切る」

「止めろ、ユキが落ちてしまう」

「さあ、どうする。黒豹になるのか、ならないのか」

 トイラは柴山の望みどおりに黒豹になってやった。

 そして柴山に飛び掛かった。

 柴山は持っていたナイフを闇雲に振り回した。

 トイラは唸りながら、何度も飛び掛かり、攻撃態勢を崩さなかった。

「おい、屋上でなんかやってるぞ。黒いものが飛び交ってるのが見える」

 運動場から皆首を伸ばして見ていた。

 ユキも何が起こっているか様子見ようと体をよじらせた。

 トイラが黒豹の姿で戦っている姿がちらりとみえる。

 ユキはトイラに何かを言いたくて、もごもごしている。

 そして足が自然とばたつくと、その拍子に振り子のようにゆれていた。

 それがまたユキの恐怖をそそった。

 下ではユキが動くたび、『うわぁ』や『キャー』という声が漏れていた。

 ユキの縛られていたロープが動く摩擦に耐えられなくなり、徐々に切れかけてくる。

 その下では消防隊が落ちても大丈夫なように、布をぴーんと広げて救助の待機をしていた。

「トイラ、待て、ユキちゃんのロープが切れ掛かっている」

 柴山が気がついて真っ青になった。

 ただのはったりにすぎず、ユキを落とそうとは全く考えていなかった。

「ユキ!」

 そのときロープが切れてしまった。

 ユキが落ちていく。

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