恋の宝石ずっと輝かせて
「ごめんね、仁。私自分のことしか考えてなかった。仁はこんなにも私のこと心配してくれてるのに」

「ユキ、みんなの前で恥ずかしいよ」

 仁はまた母親になんか言われると思うと、気が気でなかった。

 しかしユキに握られた手が嬉しいのか照れていた。

「ほら、いったでしょ、ユキちゃん。仁は大丈夫だって。病気になってユキちゃんに看病して貰った方がラッキーって思ってるくらいよ」

 仁の母親がそういうと、周りは安堵の笑いが漏れた。

「母さん、余計なこと言わないで。でもちょっとだけユキと二人っきりにしてくれない」

 息子にそういわれ、母親はユキの父親にそうしましょうと合図をとって、みんな部屋から出て行った。

 やっとユキと落ち着いて話ができると、仁は軽くため息をついた。

 体を起こしてユキの目をじっと見る。

「ユキ、君のお父さんと電話で話をしたとき、ちらっと聞いたんだけど、また向こうに戻るかも知れないんだってね。お父さんはそれで悩んで家を出たって思ったらしいよ。ユキは本当に向こうに行っちゃうの?」

「えっ?」

「向こうに行けば、トイラがいた森の近くになるもんね。そしてそこにはトイラの思い出もいっぱいだよね」

 仁はユキの古傷をつつく気分だった。

 しかしユキにもはっきりといいたいことがあった。

「仁、あのね、今日あの山で私の思い出の中のトイラの姿を見せられたの。私とても辛かった。やっぱりトイラのこと忘れられないって思った。仁、お願いがある。ジークから貰ったもの、あれはトイラたちの記憶を消すものでしょ。それを私に使って、私から記憶を消して欲しいの。そうじゃないと私はいつまでもトイラのこと思い続けて苦しいの。ここに居ても、あっちに戻ってもきっとこのままじゃ苦しいだけ」

「じゃあ、それを使えば、ユキはあっちに戻るんだ。でもそれって、ユキは逃げてるんじゃないの?」

 仁はがっかりする。

「でも、このままじゃ、辛くて辛くて。それにみんなに迷惑をかけてしまう」

「トイラはどうするの? トイラはユキを思って、自らをユキに託した。それでもトイラのことを忘れてしまいたいの?」

「仁、何が言いたいの? 仁だって私からトイラを離して、忘れるようにしようとしたじゃない」

 ユキは反発する。

「それはそうだけど、あれはユキを助けようと思って血迷っただけ。これとは話が違う」

「何が違うの?」

「ユキ、忘れたくないものを無理に忘れる必要がないってことだよ。大切な思い出はきっと将来、持っててよかったって思えるよ。今は時間がかかるだろうけど、トイラの思い出と一緒に生きて、ユキはトイラのこと忘れちゃいけないって思うんだ」

「仁……」

 ユキの目にじわりと涙が溢れてくる。

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