恋の宝石ずっと輝かせて
「変わったこと? 十分あるわよ。あなたたちが来たし、カラスやスズメが襲ってくるし」

「そうじゃなくて、ユキ自身の体の変化とか。例えば胸の辺りが、その大きく……」

「ちょっとまた、胸の話なの。どうせ私はないですよ」

 ユキの気に障り、キースは怒らせてしまった。

「違うって、そうじゃなくて」

 弁解しようとしたときには、ユキはスタスタと前を歩き、その勢いでトイラを抜かしていった。

 トイラは立ち止まりキースに振り返った。

 追いついたキースは「やっちまった」とトイラに自分の失敗を知らせ薄笑いした。

「何やったんだよ」

「その、胸に印が出てないか確かめようとしたんだけど、失敗したってこと」

「無理に確かめるなよ」

「何言ってるんだよ。仕掛けられたカラスとスズメのせいで、あれは確実に目覚めてしまったよ。あの印がでたらやばいことくらいトイラだって知ってるだろう」

 キースは正しい事をしていると主張する。

「分かってるけど」

「ここで奴が現れたら、ユキの胸の中のアレはどんどん目覚めてユキは……」

「やめてくれ」

 その先をトイラは聞きたくなかった。

「何を逃げてるんだよ。だからこそ、正確な大きさを知るべきなんだ。まだユキの記憶がないところをみると初期段階だろうけど、ユキは時々胸を押さえて苦しんでいる」

「分かってるよ」

「わかってないよ。僕がいいたいのは、今を大切にしろということだ。恐れて逃げることばかりじゃ、後悔するぞ」

 キースに言われ、トイラはぐっと腹に力を込めた。

「うるさい。俺とお前じゃ背負ってるものが違いすぎるんだ。そんな簡単に割り切れるか」

「おい、トイラ!」

 トイラはいたたまれなくなって、キースから離れていく。

 キースはトイラに腹を立てたくても、同情の方が強くて気持ちが失せた。

「どっちも聞く耳もたないんだから」

 キースは空を見上げる。晴れ渡っているのに、はっきりとしない薄い青さが広がっていた。

 優しい水色ではあるが、どこか物足りないものを感じていた。


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