狼を甘くするためのレシピ〜*

 次の日の朝。

 蘭々と一緒に部屋を出ようとするケイを、電話の呼び鈴が追いかけた。

「送らなくて大丈夫よ。出たら?」
 ケイは蘭々の頬にキスをして、「悪いな」と言う。

 そして。

「いい子にしてたら、次はこの部屋の鍵を渡す」

 そう言って、唇にキスをした。

 茫然とする蘭々を残し、ケイは「じゃあな」と背中を向ける。

 ハッとして我に返り、腹が立ち紛れにスリッパを廊下に投げ飛ばした蘭々は、荒々しく扉を閉めた。

 ――な、なによっ。
 エレベーターに乗り、扉が閉じるまで1Fのボタンを連打しながら唇を噛む。

 ――いい子にしてたら?
 なに様なのよ。ふざけないで!

 赤く頬を染めて、落ちてゆく階数表示のランプを睨みながら、それでもふと思う。

 ――部屋のどこにも、女の影はなかった。

 一緒にバスルームに入って、キスをしながら、それでもしっかりチェックした歯ブラシの数。
 洗い物をしながらさりげなく見たカップ。
 ケイが着替える時に何気なく視線を走らせたクローゼットの中。

 そして。

 ほしいと思ったケイの部屋の鍵……。

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