狼を甘くするためのレシピ〜*
 もう三十歳になるのよ?しっかりしなきゃと、自分に気合を入れた。

 男に振り回されるなんて情けなすぎる。
 少なくとも今まで、男を振り回すことはあっても、振り回されることはなかった。

 最初の彼が出来たのは十七歳の時。
 初恋に敗れ、できてしまった心の隙に怯えて、急いで大人になりたかった蘭々が選んだのは十歳年上のデザイナーの卵だった。

 まだ子供だった蘭々には、落ち着いてとても大人に見えた彼。

 今思えば十歳年上とはいっても、彼は二十七歳だった。
 その彼が蘭々の時間と心の全てをほしがったのは若さゆえだったのか、性格なのか、今となってはわからない。

 ただ、付き合い始めてひと月もすると、会うことが苦痛になり蘭々は彼を突き放した。

 二人目の彼が出来たのは二十七歳の時。
 アパレルメーカーの彼だった。生き生きと働く姿に魅力を感じ、なぜかふいに結婚してもいいかなと思った。

 モデルの引退を具体的に考え始めていたこともあったと思う。
 彼との未来を考えてもいいかと思い始めた矢先、急にできた空き時間で彼のマンションを訪れた。

 玄関で脱ぎ捨てられたパンプス。廊下まで響く喘ぎ声。
 なぜか怒りよりも冷めきった気持ちで、そのままリビングへ進み、ソファーの上で絡み合う二人を見下ろした。
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