狼を甘くするためのレシピ〜*
 相手は駆け出しの女優。彼は『違うんだ、こんな女はほんの遊びで』わけのわからないことを喚きながら、その彼女を突き飛ばした。
 床に散乱していた服を裸の彼女に掛けてあげて、彼の部屋の鍵を床に落とし、『さよなら』と別れを告げた。

 そんなことをされても、むしろ心の中で彼にあやまった。

『ごめんなさい、愛せなくて』

 彼が浮気をしたのは、自分が心から愛してあげなかったからかもしれないと思った。

 ふたりとも、彼らは蘭々の初恋の人に似ていた。

 一人目は横顔が。もう一人の男は笑った時の口元がそうだった。

 どちらの恋人にも彼ら自身に恋はしていなかった。初恋の残像を探していただけ。

 でも、ケイは違う。

 ――ケイは全てがケイだけのもの。

 どこを探しても、ケイの中にコウはいない。
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