狼を甘くするためのレシピ〜*
 そのうえで、ミナトモケイという男性に対する紗空の感想は、『この人はモテる』ということだった。

 ――蘭々さんを惑わすだけのことはあるわ。
 しみじみと、そう思った。

 氷室仁を通して挨拶を交わしたが、同席したのは恋人の燎が迎えにくるまでのほんの十分かそこらの短い時間でしかない。

 その短時間に得られることなど単なる印象にしかすぎないが、それでも充分に彼の持つ魅力を感じとることができた。

 まず、笑顔がいい。

『ああ、燎の。さすがに美人だ。あいつが羨ましいな』
 彼は穏やかにそう言って微笑んだ。

 普通、心から感嘆していたら、そんな風に落ち着いて言ったりはしない。ミナモトケイが言ったのは、あくまで大人の社交辞令である。

 そのお世辞を、いやらしさの欠片もみせず、あれだけスマートに言いのけるところを見ただけでも、彼は間違いなく罪な男だと思った。 
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