狼を甘くするためのレシピ〜*
 西が更衣室に向かうのを見届けた源径生は、振り返って自分の席へと歩いていく。

 森の話はひと通り終わっている。
 月子は既に空になったコーヒーカップを手に取った。

「じゃあ、もういいかしら?」

「ええ、ありがとうございました」

 ふたりはテーブルを離れた。
 森は自分の席に向かい、月子は源径生に向かって歩き出す。

「お疲れさまです」
 追いついた背中に声をかけた。

「お疲れ」

「どうでした? 木戸さんは」

「ああ、左足を骨折だとさ」

「ええ? 骨折って、転んだだけでなんですよね? 家の中でどうやって転んだら足を骨折するんでしょう」

「さあな、俺にも想像できねぇが、電源ケーブルが絡まってとかなんとか言ってたぞ」

「……木戸さん。コントじゃないんだから」
 そんな冗談みたいな事をしでかすのが、木戸という社員だった。

「それで、どうしましょう。足とはいっても仕事は無理ですよね?」

「頭も手も無事だから仕事はするとか言ってたが、落ち着いてしばらく休むよう言っておいたよ。復帰までは俺がフォローする。心配ない」
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