狼を甘くするためのレシピ〜*
「そうですか」

「柊から連絡はあったか?」

「はい。夕方には戻るそうです」

 話をしながら月子は腕時計を確認する。
「どうしましょう社長、もうそろそろ出かけますか?」

「ああ、そうだな」

「では、出かける準備をしておきますので、いつでもお声掛けください」

 スッと頭を下げた月子は、ほんの少し源社長の背中を見送り、それから向きを変えて自分の席に着いた。

 月子の席は低めのパーテーションで仕切られている。姿勢よく座われば、他の席が見渡せた。

 視線の先にある社長、源径生の席もよく見えた。
 いま、彼は座らずに、立ったままデスクを見下ろしている。資料を準備しているのだろうか、手を動かしていた。

 今日の服装は白いTシャツの上に渋いワインレッド、バーガンディの厚手のシャツを羽織っている。

 シャツの色が変わるくらいでいつも似たような恰好だが、どれもこれも彼のためにある服のように似合っていると、月子は思う。
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