狼を甘くするためのレシピ〜*
 すらりとしているが、Tシャツのシルエットから胸元の逞しさが滲み出ている。

 肌の焼け具合もちょうどいい。

 スポーツジムと農作業で鍛えているだけのことはある。八頭身の身長に対する筋肉のバランスも完璧だ。

 感心のあまりため息が出た。
 ――いつ見ても素晴らしいわ。

 刀を振り上げ、鎧兜をつけて馬で疾走したら、ああ。
 私は馬になって彼と戦場を駆け抜けるのよ!

 想像だけで悶絶しそうになり、ハッと我に返ると慌てて径生から視線を外した。

 月子が今、最も愛する二次元の恋人は乙女ゲームの戦国武将。

 社長、源径生は、その『源』という名前といい、見た目といい、声優のような色気のあるバリトンボイスといい、月子にとってはまさに二次元の世界から抜け出した戦国武将の恋人、そのままだった。

 ――コスプレしてくれないかしら社長。甲冑が無理でも直垂でもいいわ。
 忘年会の余興でも企画して用意しちゃおうかしら。

 なんてことを密かに思ううち、いつの間にかそれなりの時間が経っていたらしい。

「行こう」

 着物ではなくビジネススーツに着替えた源径生が、そこに立っていた。

「あ、はい」
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