狼を甘くするためのレシピ〜*
径生と連れ立ってタクシーに乗り込むと、月子はすかさず資料を取り出した。
これから向かうのは、婦人服を主流とするアパレルメーカー。
静止画ではなくVRを利用して、実際にファッションショーを疑似体験できるなど、ネット通販のサイトを根本的に見直したいという相談があった。
資料には、クリエイターから吸い上げた具体的な提案がいくつか提示されている。
渡された資料をゆっくりと隅々まで見つめていた径生は、パラリとファイルに戻し「相変わらずバッチリだ」と微笑む。
「よかった。では予定通り、このまま進めますね」
「ああ、任せる」
ホッと胸を撫でおろし、バッグに資料を戻す月子を見つめながら、ふと径生が言った。
「なぁ月子、この仕事楽しいか?」
「なんですか、いきなり。もちろん楽しいですよ。楽しくなかったら辞めてますって」
「お前のことだからそうなんだろうが、辞めたくなったら半年前には言ってくれよな、急いで事業縮小するから」
「もぉ、何言ってるんですか。私がいなくたって代わりはいくらでもいますって」
口ではそう言ったが、自分でも自信はある。こんなに仕事ができる女はそうそういないわよ、と。
――っていうか、辞めるなよとか言ってくださいよ。
これから向かうのは、婦人服を主流とするアパレルメーカー。
静止画ではなくVRを利用して、実際にファッションショーを疑似体験できるなど、ネット通販のサイトを根本的に見直したいという相談があった。
資料には、クリエイターから吸い上げた具体的な提案がいくつか提示されている。
渡された資料をゆっくりと隅々まで見つめていた径生は、パラリとファイルに戻し「相変わらずバッチリだ」と微笑む。
「よかった。では予定通り、このまま進めますね」
「ああ、任せる」
ホッと胸を撫でおろし、バッグに資料を戻す月子を見つめながら、ふと径生が言った。
「なぁ月子、この仕事楽しいか?」
「なんですか、いきなり。もちろん楽しいですよ。楽しくなかったら辞めてますって」
「お前のことだからそうなんだろうが、辞めたくなったら半年前には言ってくれよな、急いで事業縮小するから」
「もぉ、何言ってるんですか。私がいなくたって代わりはいくらでもいますって」
口ではそう言ったが、自分でも自信はある。こんなに仕事ができる女はそうそういないわよ、と。
――っていうか、辞めるなよとか言ってくださいよ。