狼を甘くするためのレシピ〜*
「そろそろ本気で社長にならないか? 俺が陰で支えるから」

「嫌です。専務か常務に頼んでください」

「あいつらも絶対に嫌だって言うんだよなぁ」

「当然ですって。社長が社長じゃなきゃVdreamは空中分解しちゃいますよ。珍獣みたいな社員しかいないのに」

「珍獣ってお前、ひどいなぁ」
 ケラケラと径生が笑う。

 月子の役職はチーフクリエイティブオフィサー略してCOO。
 何しろVdreamには仕事はできるが、対人恐怖症だったり極度のあがり症だったり交渉が苦手な社員が少なくない。

 そんな彼らに代わり、顧客との矢面に立つのが月子の主な仕事だ。時には営業、事務もこなし、早い話が何でも屋。Vdreamの便利屋である。

 それでも彼女は、この仕事が気に入っていた。
 疲れる以上に楽しくて、充実した日々を実感している。

 やりがいを感じていることの他に、今隣に座っている源径生が社長であることが活力源になっているのは、言うまでもない。
< 186 / 277 >

この作品をシェア

pagetop