狼を甘くするためのレシピ〜*
「あ!」
 突然、月子が声を張り上げた。

「うおっ、なんだよ、いきなり」

「どうしよう」

「なんだ? どうした?」

「服……、あ、でも別に大丈夫です。すみません。突然ビックリさせちゃいましたね」

「服?」

 径生は一瞬怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに月子の言いたいことに思い当たった。
「あー、そういうことか」

 袖に手をあてて腕時計を見た径生は、タクシーの運転手に某百貨店の名を告げる。

「ちょっと覗いて着替えてこい。支払いは俺がする。臨時ボーナスだ。好きなのを買っていいぞ」

「え、でも?」

「大丈夫だよ、時間に余裕はあるし、昨日も一件契約取ってくれただろう? 礼だ」

 婦人服のアパレルメーカーに行くと言うのに、そのブランドの服を着ていない。

 顧客が物を売る仕事なら、可能な限り打ち合わせには顧客の商品を身に着けていく。
 それは誰かに言われたわけではなく、月子自身が心に決めているこだわりだった。
 もちろんVdreamの方針でもない。
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