狼を甘くするためのレシピ〜*
 社長の径生は月子が別のブランドの服を着て打ち合わせに出向くことについて、なにも気にしないだろう。

 以前その話をしたことがあるが、彼は「それでお前が気分よく仕事ができるなら、そうしたらいいんじゃないか」と、肩をすくめて言っただけである。

 社長源径生は、多くは語らず意思を尊重してくれる。そういうところが最高だと思う。

 これだから、珍獣しかいなかろうとVdreamは辞められないのだ。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「はいはい。どうぞ」

 買い忘れていただけで既に下調べは済んでいる。
 なので、服選びには困らない。

 タクシーを飛び降りるとまっすぐに店に向かって、手っ取り早くワンピースを手に取り、急いで服を着替えた。

 タグを取ったり、着ていた服を紙袋に入れてもらったりしているうちに、径生は既に会計を済ませていたらしい。

 店の隅のソファーに腰を下ろし、ファッション雑誌を広げていた。 
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