狼を甘くするためのレシピ〜*
「お待たせしました」

 集中しているのか、雑誌のページを見つめたまま径生は動かない。

 一体なにをそんなに真剣に見ているのかと、覗いてみる。

 ――広告?

 彼が見つめているのは、全面見開きで二ページを使った化粧品の広告だった。

「社長?」

 今度は耳に届いたらしく、径生はハッとしたように顔をあげた。

「相変わらず何を着ても似合うなぁ」と褒めてから、「じゃ、行くか」と立ち上がる。

 気負いのない自然な誉め言葉と、ゆとりのある笑顔。

 社長こそ相変わらずおだてるのが上手ですよ、と思いながら、径生の後ろに続き歩き出そうとした月子は、ふと立ち止まった。

 振り返って見つめたのは、径生がテーブルの上に戻した雑誌の表紙。

 ――え? 春のワンピース?

 今、季節は秋。
 情報を得るために目を通すにしても、ちょっと不自然だ。

 広告のデザインでも見ていたのだろうか?

 振り返って急いで径生の後につきながら、月子は首を傾げた。
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