狼を甘くするためのレシピ〜*
 打ち合わせは無事終わった。

 急いで着替えたワンピースの効果はあったらしい。担当者は一目見るなり破顔して喜んでくれた。

「担当はサクラか」

「はい。その予定です。彼女はこの業界の仕事に慣れていますしね」

 タクシーの中でそんな話をしながら帰る道すがら、通りを歩く知った顔が見えた。

「あ、曄さん」
 月子が窓ガラスに張り付いて手を振ると、彼女も気づいたようで手を振り返した。

 隣を歩く男性も、続いて軽く頭を下げる。

 曄(はな)さんは、同業者の『株式会社Kg』社長秘書。そして彼女と一緒にいるのは、彼女と同じ会社の若き専務神田(かんだ)氏。彼らは恋人同士でもある。

「結婚披露パーティに呼ばれたよ」

「え? 社長も?」

「ん?」

「あら、そうなんですか。私もお呼ばれしているんですよ」

「そっか、曄ちゃんと仲がいいんだっけ。」

「はい」

「Kgは社長も専務も社内結婚だなぁ」

 のんびりと径生が、そう言った。
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