狼を甘くするためのレシピ〜*
「いるんですか? 社長。一緒に仲人をする女性」

「ん?」と振り返った径生は、うーんと唸ってニヤリと口元を歪める。

「なんですかヤラしいなぁ、もぉ社長は」

「なんだよ、なにも言ってないだろう」

 ケラケラと笑う径生を細目で睨みながら、月子はため息をつく。

 ――ほんと、社長は口が堅いんだから。

 月子が株式会社Vdreamに入社して一年になるが、その間、彼には時々女の影が見え隠れすることがあった。
影の出所は多くの場合電話から。

『ああ。うん。いや。ごめん』
 基本その四つの言葉を返すだけの会話。
 あれは恐らく女からだと、月子はみている。

 友人が相手の場合はもっと言葉数が多いし、仕事関係の時はまた全然違う。

 彼の男ぶりなのだから、モテるだろうし、恋人のひとりやふたりいて当然だと思う。

 でも、彼の口からその話が出たことはなかった。

 自分自身のプライベートの話だけではない。
 社員ひとりひとりのことを最もよく知っているのは社長である彼なのだが、まず余計なことは言わない。

 今朝のように、本人に小言を言っている場面は見かけるが、本人がいないところで彼らを貶すようなことは一切しない人なのである。
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