狼を甘くするためのレシピ〜*
5.首ったけのララバイ
 その日の夜。

 お疲れ様でしたと店を出ると、蘭々は自転車を飛ばした。

 差し入れは、途中で買ったちょっとだけ値の張るワイン。
 レストランバーでの食事のお礼と手切れ金のつもりである。

 マンションの手前で自転車を降りた。

 ケイの部屋が見えるだろうかと見上げてみても、どんなに見たところで首が痛くなるだけでまったくわからない。

 駐輪場に自転車をとめて、すぐに渡せるようにリックの中からネクタイとワインを取り出す。

 エントランスに入ると、軽くコンシェルジュに挨拶をする。
 今朝も顔を合わせてためか、微笑みを返されるだけで何も聞かれない。

 呼び出しボタンを前に大きく息を吐いた。

 これほどドキドキするのはいつ以来だろう。ゴクリと喉が鳴る。

 勇気を出してボタンを押した。

 応答はない。

 約束をしたわけではないのだから、いなくても仕方がないが、間をおいて二度三度と連打した。

 相変わらず応答はない。

 仕方がない。出直そうとため息をついた時『はい』とケイの声がした。
< 195 / 277 >

この作品をシェア

pagetop