狼を甘くするためのレシピ〜*
「あ、ああ、サンキュー」
 差し出したふたつの袋を、あっけにとられたように受け取ったケイは、肩をすくめて廊下の奥へ消えた。

 連絡もせず勝手に来て、上がれとまで言ってくれたのに冷たく断って、忘れ物を取りに行かせたり、本当に感じが悪い女だなと、自分でも思う。

 わかってはいる。
 わかっているけど、この強気な姿勢を崩せない。

 そんなことよりも“遊びと割り切れないバカな女”とは思われたくないほうが先に立つ。

 戻ってきたケイが「はい」と、ピアスを差し出した。

「ありがとう、じゃあね」

 ケイは軽く頷く。

「じゃあな」


 言ってることもやっていることも、何もかもが矛盾していると自分でも思う。

 でも、せめてもう一度くらい、本当に上がらないのか?と確認してくれてもいいじゃないか。
 そうすれば、ありがとう。でもごめんね、用事があるの、と素直に帰れるのに。

 ――止めなさいよ!
 じゃあな、って何よ!

 クルッと背中を向けたものの無性に腹が立ち、振り返って睨みつけた。
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