狼を甘くするためのレシピ〜*
 デスクに肘をついた月子は、目をつむって考えた。

 彼にしては珍しく、真剣に見入っていた季節外れの女性ファッション誌……。
 廊下を歩きながら、楽しそうに鼻歌を歌っていたのはいつだったろう? あれは確か、田舎から戻ってすぐだった。

『なぁ月子、お前は美人で困ったこととかあるか?』
 そう聞かれたのは、先週のこと……。

 極めつけは一昨日の会話。
『ワインに合う美味い料理なんかないか? 俺にも作れる超簡単なやつ』

 冷蔵庫にある材料を聞いて教えたのは、チキンのトマト煮。
 自分だけで食べる料理だとしたら、わざわざ相談してくるのも不自然だった。

 ――アヤシイ。

 具体的に形となって現れているものはないが、何かある。

 胸の奥で疼く小骨から、ピッピッピッと送られてくる信号。
 それに名前をつけるなら、これは女の勘というやつだ。

 ゆっくりと瞼を上げ、うーんと唇を結び、月子は疑わしげに源社長の席を見つめた。
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