狼を甘くするためのレシピ〜*

 源径生が出社したのは、それからまもなくのことだった。

 彼は自分の席に座る前に、月子の元に来た。

「おはようございます。社長」
 かしこまって挨拶をする。

 別に社長なんて呼ばなくていいんだぞと、彼から言われているが、そんなことは気にしない。

「おはよう、昨日は何かなかったか? 悪かったな、急に休んで」

「いいえ、休める時は休まないと。ちなみに聞いてますか? 今から経営会議だそうですが」

「ああ柊から聞いてる。ミーティングルームだろ?」

「ええ、右端のミーティングルームです」

「じゃあ行くか。奴らは先に入っているんだよな」

「ええ」

 資料を手に月子は席を立ち、ふたりはそのままミーティングルームへと向かう。

 歩きながら、前を歩く径生の背中をジッと見た。

 彼の服装は、いつもほとんど変わりない。
 ボトムスは相変わらずのジーンズだし、トップスはロングTシャツに黒のライダースジャケット。

 ――でも。
 中に着ているヘンリーネックのシャツは、いつになく、ちょっとおしゃれだ。
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