狼を甘くするためのレシピ〜*
 ひとまずコーヒーを口にする。

 芳醇な香りが鼻腔を抜け、微かな酸味とほろ苦さが広がって満ちてゆく。
 その風味はまるで、今の気持ちを代弁するようだと思った。

 苦くて、どこか甘酸っぱい。

 結局たてつづけに三日間、ケイと夜を共にした。

 ケイの胸の中で眠りにつき、彼のぬくもりを感じながら目を覚ます。そんな日を三日も続けてしまった。

 “アキの冒険”として済ますには、関わり過ぎたとしか言いようがない。

「はぁ……」
 またひとつ力のない息を吐いて、スマートホンを手に取った。

 ――とにかく、返事をしよう。

 文字を打つ前に、目をつむって言葉を連ねてみる。

 いってらっしゃい。
 お仕事がんばってね。
 お土産、楽しみにしているわよ。

 毒にも薬にもならない無難な言葉が、空しく浮かんでは消える。

 どれもしっくりこなかった。
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