狼を甘くするためのレシピ〜*

 ケイと出会った田舎に行って明るい色の服を着た。

 そして、自分がしてみたことはと言えば、ケイと二度目に出会った店でコーヒーを飲んだこと。

 ゲリラ豪雨が降ったあの時とは違って晴れていたせいか、店は客も少なくて、彼と座った席は空いていた。

 ここに彼はいなかったのよ。
 そんな風に過去を消すことは出来ないけれど、彼はもういないんだと、言い聞かせることは出来る。そう思って口にしたコーヒー……。

『ここのコーヒー上手いだろ? マスターは詐欺師みたいな顔しているけど、コーヒーは信用できるぞ』

 得意げに言ってそう言ったケイの声を、白い歯を見せて笑う顔を、まざまざと思い出した。

 ――私はバカだ。

 その時ようやく気づいた。

 忘れるためにここに座ったわけじゃない。
 ケイを追って、ここまで来たのだ、と。
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