狼を甘くするためのレシピ〜*
「離して」

「僕には君しかいないんだ」

 今はまだ誰も気づいてはいないが、人の目がある。

 見れば友人たちは少し離れたところで歓談していて、この状況に気づいていない。

 こんな時、すかさず助けてくれる仁や洸、かつてのマネージャーもいない。これ以上揉めたくはないが、酔っているのだろう、元彼の目は赤く血走っていた。

 気づいたらしい元彼の部下が、さりげなく歩いてくる。
 助けてくれるのかと思いきや、彼らはあろうことか、他人の視線を避けるように壁を作った。

「叫ぶわよ」

「へえ、このパーティを台無しにできるのか?このままここを抜け出そう」

 仕方がない。廊下に出たところで逃げるしかないかと観念した時だった。

「なんだ、お前は」

「次期社長がそれじゃ、先が思いやられるな」

「あ?」

 部下が飛んできて耳打ちする。すると、元彼は悔しそうにその場を去った。

「ケイ」

「今度パーティに出席する時は俺に言え」
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