狼を甘くするためのレシピ〜*
6.狼を甘くするレシピ
遡ること一日と数時間前。
Vdreamの社内で、月子と森がランチを取っていた。
テーブルを挟み、二人は向かい合うことなく体を外に向けている。
二階とはいえ景色はそう悪くはない。
大きなビーズソファ―に腰を沈めて上を見上げれば空が見渡せるし、背の高い街路樹が時折風にそよぐ様子を見れば、仕事に疲れた体は癒される。
今は秋。揺れる葉は黄金に色づいている。
「いつの間にか紅葉してますね」
「ほんと。最近忙しかったから気づかなかったわ」
「お疲れさまです。月子さん馬車馬のように飛び回ってましたもんね」
「馬車馬は余計よ。やっぱり美味しいわ、これ。森くんがこの卵サンドイッチにこだわる理由がわかったわ。この前ね、出掛けた先で似ているサンドイッチを見かけたからちょっと食べてみたの。でもなにかイマイチだったのよねー」
「でしょ、僕は卵サンドにはちょっとうるさいんです」
クスッと笑いながら、コーヒーで喉を潤すと、森がしみじみと言った。
「バーで会った女の人、なんだかものすごく綺麗でしたね」