狼を甘くするためのレシピ〜*
 その時森は、化粧室へと立った月子を席で待っていた。

 ワインも一本開けたところだし、次の日も仕事なので深酒はできない。月子が戻ったらそのまま店を出て帰ることになるだろう。
 そう思いながら暇つぶしにスマートホンに指を滑らせていた。
 テクノロジーに関するニュースを読んでいるうちに、面白い記事が目に入り、いつしか真剣に集中して読んでいた。

 気が付くと『お待たせ』と月子の声がして、振り返るとそこには二人の美人が一緒にいたのである。

『彼女たちの席に移動して、ちょっとだけご一緒しましょ』

『え? あ、はい』

 店に入ってからずっと、森はカウンター席に座ったまま振り返ることもなかった。
 彼女たちが店にいたことも知らない。

 なので、突然湧いてきた美女の登場にただ面食らうばかりだった。

「トイレで会ったのよ。で、声をかけられたわけ。で、ついでだからちょっと一緒に飲みましょうってことになったの」

「はぁ。でも良かったんですか? 部外者に、社長がぶっ飛ばされた話しちゃって」

「い・い・の。あ、社長が来たわ。社長~」
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