狼を甘くするためのレシピ〜*
「社長、実はなにげに逃げたでしょ」

「ん? まあな。意味もわからず全力で殴られるわけにはいかないだろ?」

「え、そうなんですか?」

 森はまたしても、ひとりで目を丸くしている。

「やっぱり。いくら冷やしたとはいっても、倒れるほど殴られたらアザになっていてもおかしくないもの。なのに、切れたのもちょっとみたいだし」

「詳しいな」

 殴り合いなどしたこともされたこともない月子が、そんなことに詳しいはずもない。
 それは、勝手な想像から適当なことを言っただけだ。

 ツンと澄ました月子はおもむろに言った。

「社長、私ビックリですよ。いつの間にLaLaと付き合っていたんですか?」

 ブッとコーヒーを喉に詰まらせたのは森だった。

 咳き込む森の横で径生が月子を振り返る。

「なんだよ、いきりなり」

「昨夜バーで偶然会ったんですよ。ね、森くん。須王さんの秘書さんと一緒にいましたよ」

「へえー。で?」

「聞きたいですか?」

「まあな」

「『あなた彼とつきあってるの?』って散々責められました」

「へえー、そりゃ悪かったなぁ」

 のんびりと径生が言う。
< 268 / 277 >

この作品をシェア

pagetop