狼を甘くするためのレシピ〜*
 最初のうちは黙って静かに祝辞を聞いていたが、やがて、隣に座っていた友人が蘭々に耳打ちする。

「ルゥに聞いたの。決め手はなにか?って」

 ルゥとは今日の主役の新婦だ。

 彼女は真面目な子だが、新郎は誠実な男とは言えない。
 こう言ってはなんだが、蘭々の彼に対する評価も同じで、ロクデナシだと思っている。

 自分も誘われたことがあるし、衣夢も誘われたことがある。
 スタイルと顔が自分の好みであれば誰でもいいと思っているらしく、単にモデル好きな中身のない男。

 新郎はそんな男だ。

 今はさすがにおとなしいが、ほぼ間違いなく浮気をするだろう。ここにいる大半の友人はそう思っているに違いない。

 対してルゥは、誰にでも好かれるとてもいい子なのである。

 真面目で頭のいい彼女が、一体どうしてそんな男と結婚をするのか。

「弁護士に頼んで婚前契約書を取り交わしたそうよ。それと彼の子供がほしいんですって」

 彼女がその先に言いたいことはすぐにわかった。

 ルゥは彼の家柄と財力がほしいのだろう。

 打算の結婚だ。
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