狼を甘くするためのレシピ〜*

「へぇ」

「結婚なんて、それくらい割り切ったほうがいいのかもね」

　曖昧に相槌を打ちながら、蘭々は新婦のルゥの幸せそうな笑顔を見つめて、以前聞いたルゥの告白を思い出す。

『うちの実家、冗談みたいに貧乏だったんです。父が自己破産して失踪。母は見栄だけは一人前で生活保護を受けるのは恥とか言って、パートで働いてました』

　絶対にお金のある人と結婚するんだと言っていたルゥ。

　心の平安を財力に求めるルゥの気持ちは蘭々にはよくわかる。

　蘭々自身も、もし母の病状が今のように落ち着かなければ、安心を求めてそんな結婚を選んだかもしれないと思う。

　将来への恐怖を現実のものとして味わったことがない者には、ルゥの気持ちはわからないだろう。

　彼女はなにも贅沢がしたくて経済力に頼るわけじゃない。
　ただ、安心したいのだ。