狼を甘くするためのレシピ〜*
 ロクデナシの新郎は、女癖が悪い以外は総じて優しい男である。
 新郎の一族を考えれば、たとえ彼が今の事業に失敗したとしても立ち直る機会を与えてくれるだろう。

 ――大丈夫。ルゥなら彼の手綱をしっかりと握り、幸せな家庭を築けるわ。

 半ば祈願するようにそう思いながら、蘭々は退屈な来賓の挨拶に拍手を送った。


 食事が始まり、と同時にあちこちから楽しそうな笑い声や話し声が広がり始めた。

「衣夢、あなた結婚どうするの?」

 衣夢を挟んで蘭々とは反対側に座っている別の友人がそう聞いていた。

「ん? うーん、当分しないんじゃない?」
 衣夢は他人事のように答える。

 クスっと笑いながら、蘭々は自分も同じだと思う。

 そう考える理由は、イメージが湧かないからだ。
 幸せな家庭にいる自分が映像として浮かばない。エプロンをしてキッチンに立ち、夫と子供たちに笑いかける。そんな心温かい風景の中にいる自分?

 想像がつかなかった。

 そもそも衣夢も自分も、まともに相手を好きになったことが、多分、ない。

 続けて衣夢がからかわれている。
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