狼を甘くするためのレシピ〜*

「衣夢、彼はどうしたのよ、別れたの?」

「誰のこと?」

 なかったことにしているところをみると、別れたということなのだろう。

 後で詳しく聞こうと思いながら、隣で蘭々はクスッと笑う。

 蘭々も衣夢も、ふたりともなぜだか、恋人ができても長続きはしなかった。

 衣夢はいつだって、本人よりも、彼が作りだす歌に恋をする。
 その歌がどんなに心に響く歌でも当の本人がろくでなしでは長く続くはずもない。

 蘭々の知る衣夢の過去恋人は三人ともミュージシャン。ミュージシャンに恋をして、疲れて、終止符を打つ。

 蘭々の場合は、どうして長く続かないのか。
 理由は自分でもわかっている。

 蘭々には過去ふたりの恋人がいたが、そのふたりとも共通していることが一つだけあった。

 彼らは蘭々の初恋の人に似ていたのだ。

 一人目は横顔が。
 もう一人の男は笑った時の口元がそうだった。

 そして多分、どちらの恋人にも、蘭々は彼ら自身に恋はしていない……。
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