狼を甘くするためのレシピ〜*
「万が一、向こうがあなたに気づいても、知らぬ存ぜぬを通す。
 それはそれで何にも問題ない。証拠はないんだから」

 励ますように蘭々の肩を抱いた衣夢は、
「私としては、続きがあったほうが楽しいけどね」
 と付け加えてクスッと笑った。


 タクシーの中でひとりになると、蘭々はため息をついて考えた。

 一体どこからああなってしまったのか。事の起こりはなんだったのだろうと。

 思えば、失恋の話をしてしまったのが間違いの元だった。

『何か悩みがあるんだろう? こうして飲むのも何かの縁だ。聞くくらいは聞いてやるぞ』

 そもそもその話になったのは意外なことに、老けメイクに起因する。

『どうしてどう思うの?』

『なにかに疲れたような顔をしてるじゃないか』

 いやいや、これはメイクのせいだから。とは言えない。

『そうかな?』

 他に言いようがないので、適当にそう答えた。

 でもケイは、思いのほか話を引き出すのが上手かった。
< 70 / 277 >

この作品をシェア

pagetop