狼を甘くするためのレシピ〜*
『失恋か』

『私、ずっと好きな人がいたの。でも想いは叶わなくて、そのあと、その人にどこか似ている男ばっかり好きになった。
 でも結局上手くはいかなかった。
 そりゃそうよ、私が本当に好きなのは初恋のあの人。彼らを通して見ていたのは、初恋の人なんだもの』

 このことは、誰にも言ったことがなかった。

 口にすれば、その瞬間辛さを思い出す。そしてその恋の話が終わるまで、心はずっと淀んだままになる。まるで、沈んでいた泥をかき回わされて水が濁るように。

 だから、衣夢にも言ったことはない。もちろん仁にもだ。

 つい最近、ある人に口走ったけれど――それは例外である。

 誰かに言ったところで、解決できる問題だとも思えなかった。そんな気持ちもあって自分の心の中だけに隠していた。
< 73 / 277 >

この作品をシェア

pagetop