狼を甘くするためのレシピ〜*
 蘭々の告白を聞いてケイは言った。

『殻がちょっと厚いだけだ。そうやってもがいているうちに、いつか割れるさ。必ず』

『割れるかな』

『割れる。心配ない。お前はまだ、必死に殻の内側から突いてるだけのヒヨコってことだ』

 ベッドの中で抱き合いながら、ケイは耳元で囁いた。

『大丈夫。いっぱいイッて、忘れちまえ』

 何度もキスをするうち、いつしか頬を伝って流れた涙。

 その涙と一緒に、初恋の殻から少しは解放されたような気がした……。

 変装して別人になったつもりでいたとはいえ、あんな風に男と一夜限りの関係を持ったのはもちろん人生で初めてのこと。決して褒められることではないし、恥ずべきことだと思っている。

 でも、不思議なほど、後悔はしていない。

 あの男はどこか違っていた。

 ――どこまでも、いやらしい奴だったけど。

 心で舌打をしながら、それでも彼は傷を負って痛み、くすんでいた心を磨いてくれた。

 太陽のような男。

 無邪気で、心から楽しそうに笑う明るい笑顔。
 その笑顔を向けられるだけで、心の滓が消えていく。

 まるで魔法のように。
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