狼を甘くするためのレシピ〜*
 蘭々はぼんやりとそんなことを思った。

 ――ケイ。

 もう二度と会うことはない。
 そのはずだった。

 ――なのに。

 紺のスーツを着ていたので、最初はわからなかった。

 ニヤリと口元を歪めながら自分たちを見ていたのはほんの一瞬で、次の瞬間にはケイはもうこちらを見ていなかった。
 片方の手をスーツのポケットに入れたまま、連れの女性と楽しそうに何かを話していたケイ。

 何となく悔しかった。

 肌を合わせたのに、あの男は全く自分には気づかない。

『お前はイイ女だ。大丈夫、恋なんかこれからいくらでもできるさ』

『でも、自信がないの……』

『俺はお前のそういうところ、好きだぞ』
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