狼を甘くするためのレシピ〜*
 言ったわよね? 好きだって。
 たとえベッドの中の言葉でもそう言ったわよね?

 ふとそんなことを思い、ばかばかしいとため息をつく。好きだという意味が違うことは、わかっている。

 ――もしかしたら。

 彼にとってあの一夜は、もう忘れたことなのだろうか?


※※※



 ――まだ、都内にいるのかしら。ケイ。

「いらっしゃいませ」
 客を出迎えるその声にハッとして、我に返った蘭々はニッコリと笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ」

 都内に帰ってから一週間ほど自宅でのんびりと過ごした。そのあと蘭々はこの宝石店で働き始めた。

 結局、根が真面目なのだろう。
 非常勤の予定だったのに、働くからには中途半端な仕事で迷惑をかけたくないということで、他の社員と同じようにフルタイムで働いている。
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