幸福論
気が付くとここは志乃の家。
笹上さん達に話してくれて
一緒に帰って来たんだっけ。


入れてくれた紅茶は既に冷めきっていて。


どれぐらい時間は経ったか分からない。
ただ外は少し明るくなっていた。




「少しは落ち着いた?」




何も言わずにそばにいてくれた志乃は
心配そうに声をかけてくれる。


力なく頷く私の頬には
耐えることのない涙の跡。







”まこ、今は仕事”






志乃にかけられたその言葉に
確かに私は頷いた。


すぐ隣で感じる香りに
気付かないフリをした。


ステージを降りたら終わり。
早く帰って紺さんに会いに行くんだ。


そう思ってたのに。
頑張って気付かないフリをしてたのに。


ふと顔を上げると
困ったように私を見る彼。




なんで目なんて合わすの?
なんでそんな顔をしているの?
なんで。



なんでここにいるの?





わけが分からなかった。
だって、
目が合った彼は紺さんだったんだから。
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