幸福論
一人で湖を眺めた冬。


あれと同じ時期ぐらいに斗本人の口から
彼女に告白したことを聞かされた。


そうなんや、としか言えへんかった。


なんも聞かへんの?って言われたけど
なんも聞かへんのじゃない。
聞いても何にもならへんから聞かへんねん。


気にならへんわけではもちろんなかったけど
結果がどうであれ俺には関係ないから。
正確には結果なんて関係ないから


なんも聞かんかった。


でもそれはすぐに答えが出た。
撮影現場で一人、斗が泣いてるところを見たから。


たまたま通りかかったところで静かに泣いてた。
声を押し殺すように顔を手で覆って


どうしたんなんて声をかけたらあかん気がして
どうしたらいいんか分からんかったけど
次に戻ってきた時、斗の目は赤かったけど
ちゃんと笑ってた。


だから俺は知らんフリをした。


冷たい奴って思うかもしれんけど、
今だけはこうさせて欲しかった。
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