幸福論
『えっ、ちゃうちゃうちゃう!
ちゃいますよ!まぁその子とね、
ただ月を見て帰っただけなんですけど。」





少し間が空いて彼は慌てて答えた。


嘘をついた時の彼。
彼は嘘をついた時、しきりに前髪を触る。


それは何度か見たことがある。
いつかのことを思い出しそれが癖だと気付いた。


テレビ関係の仕事だって言った時も
好きな芸能人の話の時も
今だって、


慌てたように前髪をいじる。


きっと今も嘘をついた。
ううん、絶対。


だって彼のロクマル記念日に一緒にいたのも
たまたま会ったのも
一緒に月を見たのも


私だもんね。


< 403 / 448 >

この作品をシェア

pagetop