幸福論
突然1人に口を押さえられ
声も出せないほどの恐怖が私を襲った。


お母さん!
そう叫びたいのに
押さえられているため声も出ない。


するともう1人の手が
私の服に伸びた。


伸びた手は私の胸に当たる。


でも、


胸を触った男は咄嗟に手を引っ込め
口を押さえていた男に何かを言い
一緒にどこかに逃げて行った。



最後に聞こえたのは


”あいつ胸ねぇぞ、気持ち悪りぃ。”


その一言。



私はその場にしゃがみ込み
大声をあげて泣いた。


どのくらい泣いていたのか
気付けば体は誰かに包まれていた。


弟の静哉だった。


遅くなって心配して
探しに来てくれたんだ。



”迎えに行けなくてごめん”


そう言って静哉はいつの間にか大きくなった体で
私のことを抱きしめてくれた。
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