幸福論

〜崇裕〜

苦しそうに話す君。
閉じる目からは
止めどなく涙が溢れているのに


俺は彼女の手を握ったまま離さなかった。


気付けば俺の目の前もぼやけ
顔はぐちゃぐちゃ。


目を開けた彼女に見られたくなくて
咄嗟に手を離し顔を覆った。


うまく呼吸できず
言葉が出ない。


志乃さんには乳がんの手術をしたことしか
聞いていなかった。


彼女の口から聞く話は
どれも残酷で俺自身にも重くのしかかる。



無理に話させてごめんな。
俺なんかに話してくれてありがとうな。


そう言いたいのに涙が邪魔をする。


だからせめて。
せめて俺の気持ちが伝わるように


優しく彼女を引き寄せた。
びっくりした顔をしてたけど
さっきみたいに拒むことはなかった。
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