魔王と勇者の望まれぬ結末
私は、魔王ガルフの娘として魔界で生まれた。
しかし、生まれてすぐの私は魔力が魔王の娘としては意外な程に低かった。
それに対し、”魔王の娘”のレッテルはひどかった。

「魔王の娘はっ不完全だ!!」
「魔王の娘のくせに!」

幼い私でもそれが悪口である事は容易に理解出来た。母様は、私を守ろうと他者から与えられない愛情を、家族の母親の愛情を誰よりも与えてくれた。私は、それで充分だった。

(魔王の娘でなく、我が子として母様は私を見てくれる。)

その事が何よりも嬉しかった。
だけど、10歳の時それは起こった。

魔族と人間の戦争だ。事の発端は魔族の1人が魔界に迷い込んだ人間に危害を加えた事だった。魔族の1人が人間に殺されたのだ。それに怒りを感じた魔族は魔王ガルフを筆頭に人間界に進軍したのだ。
それはそれは酷い闘いだった。血を血で汚す闘いは何日も続いた。
元々、魔王である父は、魔王になれないだろう私を嫌っていた為私は母様と魔界を離れ人間界に紛れ込む事となった。
その為戦いの風景や空気を吸うことは無かったが、戦いの末武装勢力が尽きた両軍は、撤退を余儀なくされた。
しかし、魔族軍撤退の際。
母様と私は、人間界に取り残されてしまった。
母様には、先の丸いツノが二本、トカゲのような尾が生えていた。
その為母様は、すぐに撤退をしていた人間の軍に見つかる恐れがあった。故に母様は、私を森に隠した。

「ミーラ。あなたは、私とは違って見た目で見えるような魔族の姿をしてはいない。だから…あなただけでも生きて。…お願い。」
「かあ…さ、ま?」
「母は、いつでもあなたを見てるわ。だから。」
「かあさまも、一緒に逃げよ?2人ならなんとかなるよっ」
確証も保証も無いただの願望。母様まで失えば私はどう生きて行けばいいのかすら分からない。母様さえ居てくれれば…何も要らない。そうとさえ思った。だから私は願った。
(母様を守れる力が欲しい)と…

しかし、都合よく魔王の娘としての魔力が溢れでるわけも無かった。そうして母様は、2つだけ言い残した。
「母の願いです。ミーラ。あなたは人に、人間に近い姿をしています。肌にはドラゴンの鱗があり目や髪は紅く魔王の血を受け継いでいる事は明らかです。ですが母程容姿に違いは無いのです。ですから…人間の住処に行き人間として生きなさい。そうすれば…いつか魔界に帰ることが出来るその時まで…あなただけは生きて行けます。だから。生きなさいミーラ」
「かあさま…分かったわ。私生きてみせる。どんな手を使ってもっ…必ず! だからっ…」
「えぇ、あなたならきっと大丈夫。いつかきっと優しい魔王になれるわ。だから、強く生きなさい…愛してるわミーラ」
「かあさま…うっ…うあぁ」

そうして母様は、私を森にある木の幹に私を隠し撤退中の人間たちの中を何も持たず突っ込んでいった。

魔族と人間の闘いは母様の尊い命で幕を閉じたのだった。

そして、その後私は母様の身体を魔界ではなく人間の土に埋めた。
これからの私を見守ってくれるように…

「かあさま…私、頑張るから…」
小さな手は小刻みに震えながらもしっかりと握り締めていた。決意と覚悟を胸に小さな少女は空を見上げた。10歳になったこの日彼女は、唯一の救いであった、たった1人愛する人を…母親を亡くした。

そうして私は、彼に出会った。
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